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ああ〜勘違い

朝、私が出勤すると、”クレジットが通らず、客に逃げられました”というフロント係のY子のメモが置いてあった。Y子はうちのラブホテルのフロントに勤務して約2カ月である。年齢は30代後半、離婚して、両親と一緒に暮らし、2歳の小さい女の子がいる。
中学を卒業してから水商売の世界に飛び込み、昔はかなりの美人で、お店のママを任せられていたとのことである。
しかしいかんせん、会社勤めをしたことがないせいか、報告・連絡・相談ということがやや苦手である。
見た目は、しっかりとした感じなのであるが、何を説明しても「はい」とうなづき、わかっているような反応をするのであるが、後日になって全くわかっていなかったということがよくあるのである。又、何があっても相談もないし、何かトラブルがあっても簡単なメモ書きがあるだけで、そのメモ書きからは何があったのかもよくわからないことも多い。この日のメモ書きもそうだ。しかもこの時の客は24時間滞在して帰った客であったので、料金は2万円を超えていた。
Y子は帰った後であったので、とりあえず、私は防犯カメラの録画ビデオを見てみた。男性二人客である。二人ともサングラスをかけていかにも怪しそうな感じだ。一人がフロントのところにやってきて精算らしきことをしている間、もう一人の男性はフロントからやや離れた位置にあるエレベーターの前で相棒を待っていた。そして二人して去っていった。
通常、逃げられたという報告があり、防犯ビデオを検証した時には、フロント係が慌ててロビーに飛び出し、追いかけていく映像が映っている。だが、その時の映像をいくら確認しても、Y子がロビーに飛び出してきた姿が写っていない。何かおかしい。

私は防犯カメラの録画映像の検証を終え、フロントに置いてある”通らなかった”というクレジットの伝票を手に取った。幸い、クレジットの伝票には、客のクレジット番号がはいっている。これなら警察に通報すれば逮捕されるだろう。しかしその時の、状況がいまいち把握できない。警察に通報するのは、まずY子に詳しいことを聞いてからである。

そしてその日の夕方、Y子が出勤してきた。Y子が私を見るなり、興奮して言った。

「逃げられました! ビデオみました!? いかにも怪しい人だったでしょう?」

「警察に届け出たいので、で詳しいことを聞かせてくれないか?」と私はY子に尋ねた。。

Y子によると、その時に事情は次のようなことであった。
まず客がクレジットで精算をしてくれというので、クレジットカードをY子は受け取った。そしてそのカードを読み取り機に通して、すぐに客に返したという。読み取り機はクレジットの磁気データーを読み込み、クレジット会社のコンピューターと通信、伝票をあげるのであるが、それには一定の時間がかかる。
Y子は伝票があがるのをしばし待った。そしてあがってきた伝票を見たら、「使用できません」と書かれていたという。それでその事を客に言おうと思ったら、もう客はいなかったというのだ。

「客を追いかけたの?」私が尋ねると、「カメラで確認しました」とY子。
はあ〜。私はため息をついた。

私はY子に伝えた。
「警察には届け出ることはできないな。客はきっと精算が済んだとおもって帰ったのだろう。カードは通らないこともあるのだから、今後はカードを返すのは通ったことを確認してからにするようにしてくれないか。でないと、客はもう精算は済んだと思って帰ってしまうこともあるだろうから」

Y子は「普通、署名しないといけないのだから」 とそんなことはないといわんばかりの口調であった。横にいたY子と交代するフロント係のD子も「私もカードはすぐに帰すわ」とY子の応援に回った。そして二人して口を揃えて、「クレジットカードを長いこと持っていると、客に不正使用されたと勘違いされたりするもんね」と。
「通らないこともあるのだから、これからは通ったことを確認してから返してくれ」と言って、取りあえずこの話は終わりにした。

警察に届け出ることはできないし、客のクレジット伝票番号はわかるものの、個人情報がうるさい現在、クレジット会社も絶対に客の連絡先等は押してくれない。結局、こちらの泣き寝入りである。

しかし、クレジットというのは客にとっては便利であるが、こちらにとってはやっかいなことこの上ない。機械の操作もややこしいし、クレジットの金額を打ち間違えた、クレジットをテストモードであげてしまった等々で客から料金をもらいそこねることもまれに発生する。手数料もとられる上に、支払いも半月先である。最近では暗証番号を客に打ち込んでもらわないといけないものも出ているのであるが、客が「暗証番号がわからない」と言われることもある。
客にとってはポイントがついたりと、ますます利便性が増しているクレジットであるが、現金商売のラブホテルにとっては痛し痒しなのである。


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