ラブホバイブルラブホテル運営日誌>欲望には勝てない?

欲望には勝てない?

昨日のことである。夕方、私のところにフロントのS子から電話がかかってきた。その時、私は用事で県外に出掛けていた。
S子曰く、「客が精算の際に、ルームキー(カードタイプのものである)を部屋に忘れてきたというので、フロントで手集金をしたのですが、それから部屋に見に行ったら、どこにもありませんでした」
そして、ちょうどそこに社長達(社長と奥さんと、その娘。3人はいつも一緒に行動している)がやってきて、カードが見あたらないことを知り、フロントにあるマスターキーのMASTERと書いてあるところをマニキュア落としで消した上に、テプラで紛失した部屋番号を作成し、消したところに張り、そのまま置いていったという。

そのことを聞いて僕は慌てた。各のルームキーには各の客室を認識する情報が入っているからこそ、客がチェックアウトの際にルームキーを精算機に入れて、その使用していた客室の精算ができるのである。しかし、マスターキーにはその部屋の特定の情報ははいっていないから、精算機に入れても精算しようとしている客室を判別できず、精算できる訳がない。誰が考えても当たり前のことである。しかも、マスターキーではすべての部屋の鍵をあけるのことはできる。そんなものを客に渡す訳にはいかない。
私はフロントにカードキーを紛失した客室は売り止めにしておき、マスターキーは片付けておくようにと指示した。私は、急いでホテルに戻り、マスターキーを回収、ルームキーの予備を出してフロントのS子に渡した。

やれやれと思い、帰宅しようとしたら、ルームサービスのラッシュ。さっそく私が作り始める。さすがにこれだけ一挙に頼まれると、てんやわんやで通常のスタッフでは手に負えなくなる。例えば一度にたくさん注文がきた場合、色々なものを平行して作り始めることになるのであるが、生ビールやラーメンといったものは、一番最後にできあがるようなタイミングで作らないといけない。でなければ、泡のない生ビール、伸びたラーメンになってしまう。しかし、よほど慣れたスタッフでないと(気持ちの問題のほうが大きいかもしれない)、そういう段取りは難しい。いきなり生ビールを入れてからチャーハンを作り始めたりといったことをはじめてしまう。
レストランであればできた順に運ぶが、ラブホテルでは基本的にできるだけ一度にもっていくようにする。そこで何から作り始めるか、いかに並行的に準備をはじめ、同時に仕上げるか、温かい物を温かく、冷たい物を冷たくもっていくかの段取りが重要になってくるのである。しかしいかんせん、片手間でやっているルームサービスでラブホのスタッフにはなかなか難しい作業である。特に私のところでは、フロント係が一人でフロントをこなしながら、合間合間にルームサービスを作る。客室33室のラブホテルでそれなりに忙しい。洗濯やタオルたたみもフロントはしなければならない。大変、忙しい。にも関わらず、フロントは常に一人である。とても不憫であると思いながら、大変厳しい資金繰りの中で我慢してもらっている。だから私も常にフロントには待機しているのであるが、私がいない時に限って色々なトラブルが起こるから始末が悪い。
しかし、お客にも知っておいてもらいたいものである。一度にルームサービスを大量に頼むと、粗雑な出来のルームサービスを食べることになることを。
とにもかくにも、私はルームサービスに一段落ついた夜の10時頃に帰宅した。

そして今朝、ホテルに出勤すると、昨日、山ほどルームサービスを頼んだ客がお金がないと一円も支払わずに帰ったという。一応、免許証のコピーと携帯の番号はメモしてあったが、一円ももらわずに帰すとは、少々、呆れる。
昨夜11時からの泊まり勤務であったフロントのY子に「お金を一円も持っていなかったの?」と聞いたら、さらりと「わかりません、そこまで聞いていませんから」と。私のところのラブホテルに入社して3ヶ月、まだ30代前半で、見た目しっかりしてそうな感じのY子であるが、ちょっと考え方に問題があるのではないか?と真剣に心配になってきた今日この頃である。
金額は17000円以上である。食べに食べ、飲みに飲んで一円もお金がないなんてことがあるものだろうか? 「お金は3日以内に持ってきます」とのことであった。私は慌てて客に電話した。しかし電話口から「ただいま電話に出ることはできません」と応答が聞こえてきた。すかさずもう一度電話すると、今度は出た。
「こちらのお店は24時間営業ですから、何時でも構いませんので本日中にお願いします。カード精算もできますからカードでも構いません」とお願いした。それから私は「一円も持たずにご来店なされたのですか?」と尋ねた。
「いえ、ちょっと財布を忘れて」と、その男性の客は答えた。とにもかくにも、この手の場合、払わない客は電話してもまず出ることがないが、その男性客は電話に出たので、もしかしたら持ってくるかもしれない。そう思い、私は電話を置いた。
そしたら夕方、その客から電話があり、「やはり三日以内に」との電話があったとの連絡をフロントより受けた。私はまた慌てて客に電話する。
「お金が無いので、月曜日に給料が入るので月曜日にしてもらえませんか」と男性。
「では何時までにお持ち頂けますか」と聞くと「7時までには」との返事であった。
”あ、この客は大丈夫だな”私はそう感じ、安心した。

その後、その客は月曜日にきちんとお金をもってきた。何のことない、財布を忘れたのではなく、本当にお金がなかったのだ。
お金がないとわかっていながらも、欲望に負けてついつい利用してしまったといったところか。通常、飲食店等であればお金がなかったら、ぐっとこらえて利用を我慢するところであろうが、ラブホテルではそれができない方が時々いる。
”これを逃したら、後がないかもしれない”というせっぱ詰まった気持ちが、お金なしでもラブホテルに足を向けさせる衝動をもたらすのであろう。
困ったものだなと思いながら、なんとなくわかる気持ちもするのは私だけではないだろう。


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