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財布の置き忘れの責任はどちらに?

フロントのK子が事務所に顔を出して私に言った。

「お客さんが財布をなくしたから、警察を呼んでくれと言ってきかないもので、とりあえずレストランで待っていてもらってます」

「財布をなくした? どこで?」

私が尋ねると、

「こられた時にはあったらしいそうですが、部屋にはないので、チェックインの際にフロントのカウンターに置いたまま忘れたのではないかということを言われてますが。ブランドの財布だそうですよとK子。

そしてK子は一枚の小さい紙切れに書いた女性の名前と携帯番号が書いた紙切れを私に差し出した。
とりあえず私は二人が待つレストランに向かった。

レストランの扉を開けて中にはいると、ドアのすぐ後ろのに20代半ばと思われる二人の男女が立っていた。

「ここの責任者の○○と申しますが、フロントから財布を無くされたと連絡を受けたのですが」

僕が二人に声をかけると、彼氏のほうが「財布がみあたらないので、たぶん誰かが持っていったんだと思う。警察をよんでください」とやや興奮した口調でいった。眼鏡をかけ、ちょっとインテリっぽい感じの若者であった。

「申し訳ございませんが、被害届けはお客様の方で出してもらえませんか? こちらからの申請では警察は受け付けてもらえませんので」とその若者に私は言った。

「わかりました、そちらで被害届けを出せないというのなら、カメラの映像をみせてください。どうせカメラがあちこちにあるんでしょう? みせてください」

なんだか、敵意むき出しみたいな感じの言い方であった。男性はこちらの財布を見あたらないのは、こちらのラブホテル側に責任があるといわんばかりの態度であった。

「いや、申し訳ございませんが、他のお客さまのプライバシーにも関わることなので、警察からの調査依頼がないと出せないのです」

黙って私と彼氏とのやりとりしばらくを聞いていた女性が口をはさんで言った。
「まだ新しい財布だったんです。お金もかなりはいっていたんです

彼女はかなりショックを受けているようであった。顔が青ざめ、表情もこわばっているようであった。しかし、どことなく品がり、しっかりとした口の利き方をする、とても綺麗な女性であった。

「財布の中身はいくらぐらい入っていたんですか?」

私がそう訪ねると「5万です。財布も5万ぐらいしました」と彼女。

5万円も本当に入っていたのか?と一瞬、疑問に思いながらも、私は彼女の深刻そうな様子をみるにつけ、とても可愛そうに思えてきた。

彼女は私のところのラブホテルに彼氏との楽しい思い出を作りにやって来た。にも関わらず、それが生涯忘れられない嫌な思い出になってしまうのは、とても不憫なことに思えてきた。落ち込んでいる様子の彼女を見ていると、すこしでも、そうした嫌な思い出を彼女から消し去ってあげたいと私は考えた。

「少々、お待ち頂けますか?」といいレストランを跡にすると、事務所に戻った。そして金庫から5万を取り出して、再び、レストランに向かった。
つくづく私はお人好しだなと思う。だが彼女が失った5万とうちの会社が失うことになる5万とでは、その重みは全然違うと思った。

私はレストランに戻ると女性に「財布の分までは補えませんが」とお金を差し出した。

「え? こんなことして頂いてもいいんですか?」別に彼女に感謝されたと思った訳ではないが、当然、そんな言葉が当然かえってくると思った。

しかし、すかさずに聞こえてきたのは彼氏のやや勝ち誇ったかのような言葉であった。

「これで示談という訳ですか」

はあ?と思った。そして、私は私の気持ちが全く逆に解釈されたことに気がついた。
二人はあくまでも落し物が見つからないのは、こちらに非があると考えていたのだ。そして、それを私が認めたと思ったのだ。

「示談? あくまでもお気の毒だと思い、気持ちで包まさせて頂いたまでですが」

そう相手に言うと、二人のカップルにはお帰り頂いた。女性は「財布が見つかったら連絡ほしい」と言って、特段、感謝の気持ちを示すことなく立ち去った。

怒りというよりむなしさが残った。

二人が帰ったあと、私は事務所に戻り、もうどうでもいいと思いながらもカメラの録画映像をみた。二人が来たシーンを探すと、すぐに見つかった。確かに、彼女の手には黄色の財布が握られていた。チェックインの手続きは彼女がしており、その際に、彼女はフロントのカウンターに財布を置いたまま、部屋に上がっていった。

カウンターにはぽつりと財布だけが置かれていた。

まもなくして、客がやってきたが、その客は財布に触れることなくそのまま部屋にあがっていった。しかし次の客は来た瞬間、財布をさっと手に取り、持ち去った。

その客はどこの客室に入ったかは、カメラの時間と会計期の時間とを付き合わせればすぐにわかった。しかし、早々とチェックアウトしており、もはや追跡不可能であった。

録画映像を片付けながら、`”まだまだ、私はあまちゃんだな”心の中で、私は呟いた。

彼女の心の傷を心配して行動した私であったが、結果として、後味の悪い一件となった。


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