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消えた時計3

色々と悩んだ挙げ句、まず”落とし物”として警察に届けるのがベストであると思った。黙って預かっていたら、まるでうちのホテルが隠し持っていたようなことになってしまう。

私はさっそく派出所に趣き、時計を届け出た。その際、「(この時計がある時計と)よく似ているという話もあるので」と付け加えて、先日の男性の件も話をした。そうすれば、その男性のものかどうか、派出所のほうで確認してくれるであろう。
念のため「その男性客にも報告したほうがいいですか」と私は警官に尋ねた。
派出所の警官は言った。
「そんな必要はないでしょう。そんなことをしたらますますややこしくなるし、そもそも違う時計かもしれない。拾ったから届け出た、それでいいんじゃないですか?」

ホテルに戻ると、たまたま父達一家がきたので、一連の経過を話しをした。
父は言った。

「まんまと相手の罠に引っかかったもんだな。時計はT子が盗んだことに間違いない。月曜の朝、どうりでなんか表情がおかしいと思った。私はこういうことには鋭いんだ。
しかし、相手の男性は普通の男性ではないぞ。チンピラだ。わざと最初に忘れ物を取りに来たときは時計のことは言わずに、もう取りに来ないと思わせておいて、誰かが懐に入れるのを待っていたんだ。そして、まんまとその通りになったという訳だ。これから、どんどん要求がくるぞ。こうなったら、こちらとしては、あくまでも”女性が取りに来て、渡した”と主張するんだ。さもなければ、うちには泥棒の従業員がいるということで、ただでは済まなくなるぞ」

その日の夕方、男性とその相方の女性を連れて警官がやってきた。警官は身体の大きな方が多いが、その方も例に漏れず大きく恰幅のよい体つきであった。相方の男性と女性は車の中に待たせているとのことであった。
警官は、巾着袋を取りに来た時に時計を渡さなかったフロントの名前や連絡先をまず尋ねて、メモをした。刑事はK子を疑っているようであった。私は「別の時計かもしれないのですが」と前置きをしつつ、似たような時計が発見されたことを話をした。警官は、さっそく、派出所に確認してみるとのことであった。私はT子のことに関しては黙っていたが、似たような時計が見つかったと聞いて、その時のフロントであり、かつ、女性が取りに来たと証言しているT子にも関心を持ったようであった。警官はT子の名前と連絡先、及び、時計を見つけたメイク係のH子の名前と連絡先もメモした。
それから警官は時計を取りに来たという女性の防犯カメラのビデオを繰り返し見始めた。

「男性の相手の女性とは違う人物のようですね。それにあまりにもフロントに来てから時計を受け取るまでの待ち時間が短くないですか?」
コマ送りの録画映像なのではっきりとした時間はわからないが、そういえば確かに短いような気もした。

「忘れ物を取りに来る客は事前に連絡があることが通常なので、その時も多分、電話があり、フロントがあらかじめすぐに渡せるように準備していたのだと思いますよ」
私はフロントより忘れ物ノート取ってきて開いて確認した。確かに、ノートには、「電話がありました」と書いて、T子のサインがしてあった。

最初から最後まで、警官はこちらを疑い深い目で見ながら、帰っていった。

そしてその翌朝、29日、僕が出社するやいなや、昨夜の11時から泊まり勤務であったT子が言った。

「警察がこられたんですって?」

「ええ、男性が被害届けを出したみたいなんですよ」

女性が時計取りに来たということを警察が疑っているということには触れずに、”どうしてき巾着袋と一緒に時計を渡さなかったのか、それはおかしいおかしい”という話しであったことを伝えた。私はもうすべて警察に任せようと思っていたので、時計のことをT子に追求するつもりはなかった。

「なんておかしい警官ですか!?」

T子の顔を真っ赤にし、かなり怒った口調でいった。相当、過剰な反応であった。

「相手の(警官の)名前は誰ですか!?」とT子が聞くので、「いや、ちょっと名前は聞いてないけど」と答えると、「なにかあったらすぐに私に言ってください!」とT子は鬼のような形相で言った。
T子の親戚には県警に重役がいるとので、いざとなったらその人に相談するということらしかった。

それから、数日後、警察より電話があった。やはり落とし物として見つかった時計は、あの男性のものであった。物を見せないで特徴を聞いたら、すべて一致しており、間違いないとのことであった。

「物も戻ったわけだし、できるだけ丸く収める方法にはしますけど。でも場合によっては、フロントの人に話しを聞かせてもらわなくてはならないかもしれませんね」
そういって警官は電話を切った。

横で私と警官の電話でのやりとりを聞いていたO子が言った。

「やっぱり、あの時計はあの男性の時計だったですか」

「そうだったみたいだよ」
僕がそう答えるとO子が言った。

「でも、時計がみつかった以上は、これでこちらには非はないことはあきらかだわ」

一体、どういう発想してる???と思いながら、その後、警察や時計を取り戻した男性がどのような行動に出てくるものかと父の言葉を思い出していた。

だが、その後、刑事からも男性からも何も連絡はなく、この件は大事となることなく一件落着となった。


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