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消えた時計2

翌日の27日のことである。県警の刑事からホテルに電話がはいった。男性が被害届けを出したとのことであった。被害届けは出さないと思っていたので、意外であったのであるが、もっと意外だったのは刑事の態度であった。その刑事は明らかにこちらを疑っていた。執拗に「どうして巾着袋と一緒にに時計を渡さなかったのか?」と責めてくる。
「フロントがうっかりしてたんです」「相手も言わなかったから、一緒に時計があったことを忘れてしまったようなんです」「大変、忙しい土曜の夜のことでもありましたし」「取りに来た女性の姿もビデオに映っています」といくら言っても、一向にこちらの言い分には耳を傾けようしない。
それどころか、自らの経験を持ちだして言った。

「私がホテルに忘れ物をしたときは、言わないものまですべて出してきてくれましたよ。それが当たり前でしょう!?」

確かにそれが当たり前と言えば当たり前である。だが、実際にうっかりして渡し忘れたのであるからは仕方がないではないか。「おかしい、おかしい」を連発する刑事の態度に次第に苛立ちを感じてきた。

「相手の男性は非常に乱暴な口調の方であったので、私の中では詐欺まがいの事件という認識でいます」
私ははっきり思っていることを言った。だが、その刑事は「男性の気持ちを考えたら、それは仕方がないことでしょう。一度、事情を伺いに行きますから」と電話を切った。

そして更に翌日の28日。
フロントのO子が「あら、ロレックスだわ」と言った。しかも「まえのとよく似ている」と。
”ええ!?”と思い、私はその時計をO子から受け取り、じっくりと観察した。確かにロレックスである。文字盤は黒で、後ろには数字を書いたシールが張ってある。そして「入り口に落ちてました」とT子のメモがセロハンテープで時計に貼ってあった。

たまたま偶然だろうと思いながらも、私は何となく不安を感じ、泊まり明けで自宅に戻ったばかりのT子の自宅に電話して確認した。そしたら、メイク係のH子が拾ってきたという。同じく泊まり明けで自宅に戻ったばかりのメイク係のH子に電話して詳細を確認した。すると、「勝手口を出て、すぐ右手の外壁のすぐそばにありました」とのことであった。朝の6時頃、外回りの掃除の際に見つけたらしい。

この話を聞いて、私はおかしな話だと思った。T子のメモには”入り口”と書いてあったので、てっきり客の出入りするロビーの入り口かと思っていたのだが、発見されたのは客が通常通らない勝手口付近だというではないか?

私ははっとなった。

”もしかしたら、男性の言っていたことは本当であり、T子が嘘をついていたのでは?”

T子は、先日、「女性が時計を取りに来ました」と証言したが、誰かそれを実際に目撃した訳ではない。確かに防犯カメラにはT子の証言した時間に、それらしき女の子が記録されていたが、単なる一般の客だった可能性もある。

T子は客がもう時計は取りに来ないだろうと思い、懐に入れたのではないか? だが、その後になって、客が騒ぎ始めたので、慌ててメイク係が発見できるように計算して、時計を置いたに違いない。
T子はもともと問題の多いフロントであった。人手が少ない泊まり勤務の上に、長期間安定して働いてくれているという点では貴重な存在ではあったが、一方では客への対応が悪く、何度も精算機からお金をねこばばしたこともわかっていた。(そのため、精算機の釣り銭箱はフロントが触れないように常にワープロ用紙で封印している)。
何度か解雇しようとしたこともあるが、それはできなかった。T子は大変、社長である父と仲がよく、ことごとく父の反対に会うからである。

”T子め! やっかいなことをしてくれたな!!”

私ははらわたが煮えくりかえる思いであった(続く)。(前の文章はこちらから


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