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消えた時計1

久々の休みで自宅でくつろいでいたところ、フロントのN子からかなり混乱した感じで電話がかかってきた。
何でも、男性客が先日委、ホテルを利用した際に客室に忘れたロレックスの時計を取りにきたけど、そのような時計の忘れ物は見あたらず、それで他のフロント係にあちこち電話して、そのような時計がなかったかを確認したら、フロント係のT子が、「確かにそのようなロレックスの時計の忘れ物はあったが、先日に女性の人が取りに来た」「その女性が口にした部屋番号もちゃんと合っていたので、間違いないと思い、その女性に渡した」と言っているとのことであった。それでその事を男性に言うのであるが、その男性客はそんなはずはないとかなり立腹しているとのことで、「責任者に電話させろ」といって帰ったとのことであった。

”客が時計の忘れ物をしたけ、見あたらないといっている”という話を聞くと、私はビクッとする。おそらく、他のラブホテル関係にも同様な気持ちになる方が多いのではないだろうか?
というのは、かつて、ラブホテルで「時計を忘れた」「金にはかえられない形見の品だ」と嘘を言って、かなりの金額をせしめようとする詐欺が横行したという噂がこの業界では流れているからである。

私は、急遽、休日を返上して会社に向かった。そしてN子の話、それから夕方に出勤してきたT子の話や他のフロント係にも連絡して話しを聞いた。それから客のチェックインした時間なども調べ、大筋を把握した。

まずその男性客は23日の午前9時にホテルをチェックアウトしている。その際、ロレックスの時計と巾着(きんちゃく)袋を確かに忘れている。ロレックスの忘れ物があったことはフロントは皆、知っており、高価なものだからととりわけ慎重に保管していたという。そしてその日の深夜0時頃に、男性客は巾着袋を部屋に忘れたといって、巾着袋を取りに来たという。その時に対応したフロント係のK子によると、男性客は巾着袋の中味をあけ、更にその中に入っていた小袋の中味まで注意深く確認してから巾着袋を持ち帰ったという。巾着袋の中にはブレスレットだとか小物がたくさんはいっていたが、一緒に忘れていった時計のことは一言も言わなかったという。K子も男性客がその事を言わなかったこともあり、巾着袋と一緒にロレックスの時計もあったことをうっかり見過ごしてしまったとのことであった。

それから2日後の25日にT子によると「女性が○○○号室にロレックスの時計を忘れたと取りに来た」ので渡したとのことであった。
「何時に取りに来た?」とT子に尋ねると、T子は一瞬、考え込むようなしぐさをしてから、「午前0時の10分前ぐらいの時間」と答えた。
私は、さっそく録画ビデオを巻き戻して、その取りに来たとの女性の映像を探した。すると11時45分に確かに一人の女性の姿が写っていた。帽子をかぶり、顔は見えなかったが、一人でフロントにやってきて、そしてさっと帰っていく姿が映っていた。だが、時計を手にしているかどうかまでは、その映像では確認できなかった。
T子にその映像を見せ、「この女性?」と尋ねると、「間違いない」とのことであった。
だが、その翌日である本日26日の今日午後4時半頃、男性客がいきなりロレックスの時計を取りに来た。

どうも腑に落ちないことが多かった。
まず、どうしてその男性は23日に巾着袋を取りに来ながら、ロレックスのことは何も言わなかったのか? ロレックスといえば高級品である。男性も「やっと手に入れたものだ」と言っていたという。そんな大事なものを、どうしてその時には何も言わずに、3日も立ってから取りに来たのか? 普通に考えれば、おかしい。
だが、男性が巾着袋を取りに来た時のフロント係をしていたK子もどうして、男性に時計のことを確認しなかったのか? それももおかしな話だ。
通常、忘れ物が複数ある場合は、セットにして保管している。又、忘れ物はノートに記帳して管理もしている。
K子によると、うっかりしたとのことであったが、何となく腑に落ちない。
だが、T子によると25日の夜にきた女性は男性が利用した部屋番号もロレックスという言葉もはっきり口にしたという。それでT子は「信用して渡した」と言っている。
それが事実なら、その客室にロレックスの時計の忘れ物をしたということは、その男性客と連れの女性しかしらないはずだだから、取りに来た女性は男性の連れの女性ということか? しかし男性客は、「そんな女性知らない」と言っているとのこと。

これ以上考えていても仕方がないので、私は男性に電話をかけた。
名前を名乗り、”時計はこちらには見あたらないこと””フロントによると、女性が取りに来たので渡したと言っている”という”事実”について説明した。
それに対して、相手の男性は、声は低く、チンピラのような口調で言った。

「俺の時計どうした? かえせよ、俺の時計を」

「もし御納得しかねるなら、お客様の方で警察に被害届けを出してもらえませんか?」

「そんなことして解決になるかよ! そちらの責任や賠償はどうなる!?」

男性は警察に被害届を出すのには否定的なようだ。

私はほぼ、その男性の方が嘘をついているとの確信を深め、逆に尋ねた。

「巾着袋は翌日に、取りに来られたそうですが、どうしてその時に、時計のことをフロントで告げられなかったのですか?」

「巾着袋の中にはいっていると思ったんだよ」

「でも、巾着袋の中は、お持ち帰りになる際に、確認したはずですが?」

「その時は、うっかり時計のことは忘れていたんだよ」

「それでは、3日間も時計がなかったことに気がつかなかったのですか?」

「ああ、そうだよ〜、今日になって気がついたんだよ。そもそも、何で身元も確認せずに(女性に)渡した?」

「取りに来られた女性の方が告げた、日時や利用した部屋番号、忘れ物がロレックスの時計であるということがすべて一致していましたので」

「おたくの従業員が嘘を付いていることもあるだろう?」

「だから、そういうことも含めて事実を明らかにする必要があるので、警察に被害届けを出してもらえませんか? それとも被害届けを出すことに何か支障があるのですか?」

「そんなもん、ないわ」

「なんでしたら、こちらから電話しましょうか?」

埒があかず、私はとにかく警察に被害届を出すように再度、お願いした。もちろん、男性は被害届を出さないと考えていたので、これでけりがつくはずだと読んでいた。

「じゃあ、そうしてくれ」と男性も引くに引けなくなったらしく言った。

私は一旦、電話を切り、さっそく県警に電話した。予期していたことだが、「被害者から被害届を出してもらって欲しい」というので、すぐにまた男性客に電話した。

「話は通しておきましたので、県警の刑事にお電話してください。電話番号は○○○○○○○です・・・」

しばらくしてから 、私は県警に電話して、男性から電話があったかの確認の電話をした。電話はあったとのことであった。だが、、「(男性が)被害届を出すかどうかはわからない」とのことであった。
私は意外であった。私は男性は電話しないと睨んでいたからだ。
とりあえず、形だけ電話しただけか? でなければ、男性が被害届を出すのを嫌がる理由が思い当たらない。
私は、次に男性がどのような行動を取ってくるか見守ることにした。

ところが、その後、この事は意外な展開をみることとなる。(続く


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