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意識の変遷

今日は日曜日。朝、ホテルに出社すると、宿泊客で満室で部屋の空きがひとつもない。

この商売についてから実感するのであるが、客というのはそれぞれがそれぞれの自由な意思に基づいて動いているのだから、一見、ばらばらな行動を示すようにも思えるが、実際はそうではない。面白いように皆、似たり寄ったりの行動を示すことが多い。
皆、同じような時間にばたばたとやってきて、皆同じような時間にばたばたと帰っていくことが非常に多いのである。

例えば、土曜日の朝の宿泊客のチェックアウトは非常に早い。皆、宿泊時間帯の終了を待たずに慌ただしくチェックアウトしていく。一方、日曜日の宿百客はぎりぎりまで部屋にこもって出て行かない客が圧倒的に多い。そしてこういう日はモーニングの注文もとても多くなる。
そこで、日曜のモーニングの配達を僕もひたすら手伝うことになる。

この日も案の定、モーニングサービスのラッシュ。私はいくつも部屋に届けた後、次に302号室にモーニングを届けに行った。部屋の前まで来ると、ドアの隙間から鍵がかかっているのが見えた。

「ああ、またか〜」と思い、仕方なく私は玄関のチャイムを鳴らした。

私のところのラブホテルでは、ルームサービスの依頼があったら、客室の玄関のドアをあらかじめ開けておいてくれるように客に依頼する。そして配達の際には客の断りなく鍵の開いているドアを開けて、玄関の内側にある棚にルームサービスをのせて玄関のドアを閉めた後に、玄関のチャイムを鳴らして、そのまま去るのであるのであるが、中には鍵を開けて待っていてくれない客も少なくないのである。
その場合は、仕方なく玄関のチャイムを鳴らし、客に直接手渡すことになる。

扉が開き、女性が顔を出した。

「モーニングお持ちしました」

私がそういうと、出てきた女性が「え!? モーニングもらえるのですか?」と驚いた顔をした。
いつもはあまり客と視線を合わせないようにしているのだけれども、その声の持ち主である女性のほうを見ると、20台半ばぐらいのきれいな女性がにこやかに微笑んでいた。

「モーニング、ご注文なさいませんでしたか?」

私がそう尋ねると、「頼んでないけど」といい、奥の部屋に向かって「ねえ、頼んだ?」と叫んだ。「頼んでな〜い」との男性の返事が奥から返ってきた。
私は「失礼しました」と頭を下げて、部屋を後にした。
”きれいな女性だったな〜、しかも、恥ずかしがるふうもなく”と考えていたら、奥から聞こえた男性がとてもうらやましく思えてきた。

ため息をつきながら、モーニングを持って下に戻り、間違いの原因を調べてみると、結局、モーニングを頼んだ宿泊客はモーニング依頼の時間前に帰ってしまい、その後に休憩の客である、あの彼女がその部屋に入ったことが原因であることがわかった。

やれやれと思う間もなく、再び、私は次の客にモーニングの配達に出掛けた。すると、また鍵がかかっていたので、チャイムを鳴らすと、今度も女性が出てきた。
「ありがとう」といってその女性はモーニングを受け取った。この子もとても綺麗な女性であった。実際、ラブホテルを利用する女性は綺麗で魅力的な子が圧倒的に多いのである。

次にモーニングを届けに出掛けたところも、また鍵がかかっており、私はチャイムを鳴らした。そしたらまたまた女性が出てきた。彼女はガウン姿であった。このカップルは、ロビーのカメラで見ていたのだが、二人でやってくるとその女性がそそくさとフロントまでやってきて部屋をとり、その後に男性がついていくような感じであった。その女性もにこやかに「ありがとう」としっかりと私と視線を合わせてモーニングを受け取った。

無料モーニングの時間帯も終わり、私もようやくフロントの事務所で一服していると、フロントのD子がカメラを見なが言った。

「あっ、この子だわ。よく来るのよ。多いときは二日続けてとか。そしてデリヘルを呼ぶのよ。それもいつも安い部屋ばかり選んで、安い部屋が埋まっていると”空いてないですか”とぼそぼそというのよ」
時折、フロントの女性の観察力には感心させられることがままある。カメラ画像は広角であるし、あまり鮮明ではない。にも関わらず、しゃべり方や、唯一見える下半身や持ち物によって、驚くほど客を特定している。例えば、うちのホテルに毎日のように(しかも二回)男性を連れてやってくる女性がいる。たぶん援助交際で生活をしているのだろうが、まさかその女性は自分がしっかりとフロントに認識されているなんて思ってもいないだろう。だが、「ああ、あた来た」「また男性が違う」とフロントにすべて見通されているのだ。

さて、話を戻して、私もフロントの声にどれどれとばかりにカメラの画像をのぞき込む。ちょっとぽちゃっりとした20台後半ぐらいの男性である。なんかおたくっぽい感じである。
そして案の定、その男性が入室して間もなく、デリヘル嬢が当社が発行している割引券をもって登場、その男性の入った部屋に入っていった。カメラで観るに、とてもきれいなデリヘル嬢であった。

それからすぐに、その綺麗なデリヘル嬢からフロントに内線が入った。
ちょうどフロント係が席を空けていたので、僕が出たのであるが、出たのが男の僕だったせいか、なんどか沈黙を繰り返しながら、「ショーツください」と声を絞り出すような感じで言った。昨今の素人の女性よりも余程恥じらいのあるデリヘル嬢であった。(でも、チェックインしていきなりデリヘル嬢がショーツなんてどうするのだろうか?)

早速、私はショーツを届けに部屋に向かった。すると、またまた鍵がかかっていたのでチャイムを鳴らして待つことしばし。今度は先ほどのカメラでみた男性が出てきた。それも下半身にタオルだけ巻いて上半身は裸である。そして私と顔を合わせるときまずそうな表情を浮かべた。てっきりメイクの女性が来ると思ったようだ。

やれやれと思い、再び、事務所に戻ると、一息つく間もなく今度はコスプレレンタルの注文がはいった。
セーラー服片手に私は部屋まで駆けつけた。すると、またまた部屋の鍵が開いていない。コスプレだとかおもちゃだとか、そういう類いの注文に関しては、ルームサービスの場合とは異なり、鍵が空いていないことはまずないのであるが、仕方なく私は玄関のチャイムを鳴らした。ドアが開いたので、物が物だけに僕はあまり視線を合わせないように「衣装お持ちしました」と相手にセーラー服を差し出した。

そしたら、出てきた客が「フリータイムは何時までですか」と尋ねてきた。

僕は目を上げ、その声の持ち主の顔の方を見た。これまたとても可愛い感じの女性であった。胸元が大きく開いていて、隙間から黄色のブラジャーらしきものが見えた。
「フリータイムは4時までになっております」と答え、私はそそくさと部屋を後にした。

しかし以前であれば、鍵だけあけると、すぐさま部屋の奥にすばやく引っ込んでしまう客も多かったが、昨今では、ずいぶんとさまがわりしたものだと感心する。しかも若い女性でも平気で出てきて、男性である私と顔を会わしても平気どころか、声をかけてきたりする。
つくづく時代も変わったものだと思う。

さて、黄色のブラジャーの女性と連れの男性が事を済ませ部屋から出てきたので、何となく気になって、ロビーの防犯カメラの映像を私は注視した。カメラに映し出された二人の姿を見て、私は”おや?”と思った。先ほどの堂々とした行動とは裏腹に、二人とも真っ黒のサングラスで顔を隠していた。
このあたりを見ると、かなり意識は変わりつつあるが、かといってまだ完全に平気という訳でもないようだ。


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