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従業員の言い分

昨日、メイク係のQ子が、いきなり「今日15日で辞めさせてもらいます」と言いに来た。
Q子は、他のメイク係の紹介で入社した、メイク係である。入社して約4ヶ月、年齢は50歳前半である。
従業員から、「働きたいと言っている人がいるから、お願いできないか?」と言われることは、たまにあることであるが、通常は、面接にきてもらうようにいうだけで無条件に採用することはない。縁故で採用すると、何かと問題が生じるからである。しかしQ子は、私の最も信頼するスタッフの紹介である上に、他のスタッフから内密に、”実はその紹介したスタッフの血のつながった妹である”ということも聞いていた。それで、妹さんなら大丈夫だろうと無条件に採用したのである。

だが、Q子は、採用してからというもの、とにかく理由をつくっては休む。正月の間もすべて「腰が痛い」と出てこなかった。それも大概、旦那さんがQ子のかわりにフロントに電話をしてくる。直接に私に電話があったことすらない。まるで子供の対応である。
今から3週間程前にも、「病院で腰を見てもらったら、しばらく休めと言われたから、四日間ほど休みます」と言ってきたので、「今まですっと休まずに働いてきて、たまたま体の調子を壊したというのならわかるけど、Q子は入社以来、頻繁に休み続けている。こちらとしても、無条件に”わかりました”と言うわけにはいかない。病院の診断書と、先日、病院に行くと言って休んだ時の領収書を持ってきて欲しい」と頼んだ。
Q子は「わかりました」といったが、案の定、持っては来なかった。たぶん、その時に私に注意を受けて、会社を辞めようと思ったのであろう。そして給料の締め日である15日が来るのを静かに待ち、15日になり、待ってましたとばかりに「辞める」と言いに来たのである。なんと稚拙な行動である。。

「今日で辞める」と行ってきたQ子に対し、私は言った。
「ちょっと待ってくれ、アルバイトじゃあるまいし、今日来て今日辞めるというのは困る。急ぎで人の手配をするから、もうしばらく待って欲しい」

そうお願いすると、「じゃあ、明日一日だけ出てきます」と言って、今日16日にもなんとか出てきてもらったのという次第である。大企業と違い、私のところみたいな弱小企業の立場はほんとに弱い。

そして、Q子は仕事を終え、帰り際、私に言った。
「今日の分は、1日だけだから、今月の給料に含めて支払って欲しい」

私のところの給料の締め切りは15日だから、15日までの分は3月の給料分になるが、16日の分は4月の給料となる。これは会社規則であり、採用の時にもきちんと説明していることである。
それで、私は「それはできない」と言うと、Q子ははすんなり了解し、帰っていった。別に支払う金額に差が出る訳ではないし、しかも一日分である。たいした金額ではない。
しかしこの時、このことが大きなもめ事に発展するとは私は思いもしなかった。

それから夜7時頃のことである。Q子の旦那から電話が会社に入った。僕が電話に出ると、

「おたくの都合で16日まで働くことになったのだから、16日分は今月に払うのが当たり前じゃないか! そもそもこの前も、健康診断を出せといったりと、おかしな会社だと思っていた」
とまくし立てた。

初めは冷静に対応していたのであるが、あまりにも一方的な自己本位な言い方に、私もついむかっとなり、

「いいですか。Q子さんはうちの社員なんですよ。アルバイトじゃないのですよ。社会保険つけているのですよ。それにもかかわらず、昨日来て昨日辞めるというから、人の手配をするまで待ってくれと当たり前のことをいったまでで、それがこちらの都合で一方的に辞めるのを延期させられたというのは、おかしい言い分じゃないですか!?」

私の反論に、向こうもかなり怒った口調で、「たった一日のことで何をいう? じゃあ、今からそちらに話しをしにいく!」と電話の向こうで怒鳴った。「ああ、じゃあ来てください」と私も切り返す。
そして、それから30分ほどたってからのことである。今度はQ子さんの弟と名乗る方から電話が入った。

「いやあ、兄貴も短気なもんだから、ついついかっとなって申し訳ないことをした」と、その弟と名乗る方は言った。一見、紳士的な言い方で、おや、謝りの電話かなと思ったら、その直後に急に語調が変わった。それも、人をなめたような言い方に。

「でも、おたくさんもたった一日のことで細かいことをいって、そんなつまらないことで揉めても仕方がないんじゃないの? 払うものは払ったらいいんじゃないの?」

まったく、結局は身内をひいきにするだけの情けない、器量の狭い連中である。公平な観点からの議論ができない。しかし、私もこんなつまらないことでいつまでも、時間をとられる訳にはいかない。

「じゃあ、わかりました、一日ぐらいのことだから今月払いますよ」

そして、もうそそくさと電話を切ろうとしたら、相手は話しを変えてきた。

「ところで、姉は2月に仕事中に捻挫をして怪我をして5日ほど休んだ上に、病院にもかかったそうやないか。何か一言あってもいいんじゃないの?」
確かに、2月にQ子は仕事中に少し足首を捻って捻挫をしたと数日、会社を休んでいた。所詮、捻挫であるし、どうせいつもの休む口実ぐらいにしかおもっていなかったので、僕も通常の休みの扱いにしたのである。労災の申請もしてない。

「何が言いたいのですか? 治療費をこちらで払えということが言いたいのですか? 休んだ日も給料の保証をしろということですか」

「まあ電話じゃ埒があかんから、今からそっちにいってもいいか?」

「わかりました。Q子さんも一緒に連れてきて来てくださいよ」
「ああ、当然だ。今から30分後にいくから、待っててくれ」

そういうと、相手は電話を切った。
だんだんとむかむかしてきた。辞めた途端に、旦那やら弟やらという人物を担ぎ出して、要求をしてくる。なんとたちの悪い奴だ。要求があるのなら、きちんと要求をすればいい。これではまるで子供である。
私はとりあえず、紹介者でありQ子の実の姉であるM子に電話をして、事の成り行きを説明した。当然、妹の外れた行動にすぐに駆けつけてくるのかと思ったら、「あまりごたごたいうようだったら、私もいくので電話してください」との返事であった。

8時過ぎに、二人の男とQ子がやってきた。”弟”なる人物が、が先頭にたって入ってきた。眼光するどく、あきらかに”弟”というのは嘘であると思った。たぶん土建屋の方だろうと思った。右手の指には大きな包帯を巻いている。旦那さんは、頭がはげていて、いかにも農家のおやじさんといった雰囲気だ。自分では自信がなくて、だから知り合いに応援を頼んだのであろう。そして一番後ろに、Q子が付いて入ってきた。
私も含め4人でレストランにうつった

まず”弟”が口を開いた。

「こういうことは顔をつきあわせて話し合えばわかりあえることだ。見た感じ、悪そうな人にも見えないしな」

電話口でのように、いっけん、前置きは柔らかそうに切り出すのがこの人物の手法らしい。しかも、じっと私を見つめ、あきらかに私を威嚇しようとしている。
旦那さんが、いきなり怒りを抑えきれずに、怒鳴った。

「おたくの都合で一日働いたのだから、今月出すのは当たり前だろう」

この件に関しては、もう解決しているはずであるが、私も腹が立ち言い返した。

「私の都合? 15日にきて、15日に辞めると突然、言うから、それは困るから人の手配をするまで、待ってくれと当たり前のことを言ったまででしょう? それがどうして私の一方的な都合なのですか? 一方的な都合を言っているのはそちらではないですか?。そもそも保険までつけている社員でありながら、今日来て今日辞めるなんて馬鹿なことがありますか?普通は正社員であれば一月前、少なくても2週間前にいうのが当たり前でしょう?会社だって人を辞めさせるには一ヶ月前に言わないといけないのですよ」

旦那が興奮してほえた
「何をいっとる!いまどきの会社はその日のうちに辞めろというんだ!一ヶ月前にいう会社なんて、日本だけでなく世界中の会社を探しても見あたらん!だから従業員だって、辞めたければその日に辞めるというのが当たり前だ!」

いくら身内がかわいいといえ、そこまで強引な言い方をすると、とても醜く思えた。世界中の会社をどこ探してもにも見あたらない? あきれた言い分である。
そもそも本来、身内というのは、我が儘をいう身内がいたら、「おいおい、そんな自分勝手なことを言うなよ」と冷静に押しとどめるのが普通ではないか? この連中、どこかおかしい。

多勢無勢、3人は私一人相手に勢いを増して一方的に食いかかってくる。

「どうして怪我したことを見ていながら、一言、会社で負担するという一言がなかったんや。わしはそれだけがゆるせんのや。姉さんに一言、あやまってくれ!」
会社では私に何一つ反論もできなかったQ子までもが二人の勢いをかりて、文句をいう。
「なんで私だけに診断書を出せとかいうんですか! 他のSさんやRさんにも言ってないのに、なんで私だけにそんなこと言うのですか!? それもわめきちらしてちらして」

ちょっと注意しただけを「わめきちらした」とQ子は表現した。「わめきちらす」という表現はまるで子供がわがままを言って暴れたかのような表現だ。私はちょっと注意しただけである。それに自分が平気で口実を作って休み続けてきたことは、ちっとも悪くはないというのか?
日曜になるたびに休み、正月は頭から「腰が痛いので医者にみてもらったら5日ほど安静にしろと言われたから、しばらく休む」と旦那に一方的にフロントに電話で伝言させ、すかっと休む。入社してから休み休みの連続。それでいて「自分は仕事は頑張った」と言い張る。
自分自身のことはわからないものなのだとつくづく思った。
でも、人間というのは自分のことになるとエゴを丸出しにするものであろうとおもう。今の竹島問題にしても韓国の人は、自分たちの島だと主張する。一方、日本も竹島は自分たちの領土だと主張している。どちらの言い分が正しいかはわからないが、言えることはどちらも自分の得することを主張しているだけということである。冷静に分析した上で、「竹島は日本の領土だ」という韓国人もいなければ、「竹島は韓国の領土だ」という日本人もいない。そこにあるのは、正当は議論ではなく、自分たちの利益を守ろうとするエゴだけなのである。何か間違ってはないか? 

しかし性格は顔に出る。Q子の顔は最初見たときから、嫌なものを感じた。Q子の旦那さんも顔つきがどことなく子供っぽい。そのの主張の幼稚さが、顔つきにあらわれている。

私はこれではとりあえず、埒があかないので、「16日の分は今月の給料に含まさせてもらう」ということと、病院の治療費や休業した分の給料補填に関し、「私にも知識がないので、これは労働基準局で相談をしてみる」と答えて、その場を納めた。
そして、もうこんなつまらないことであまり時間を割きたくなかったので、
「なんなら、そちらで私が労働基準局に相談にいくのでは不安ということであれば、そちらで相談してもらってもいいですよ」と3人に言った。
すると3人は「いや、そちらで確認してくれればそれで構わない」と言った。そしてようやく帰っていった。
今日は疲れた一日だ。


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