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四人組カップル

「自動精算機に5400円入れたのに、3400円と表示されたのでキャンセルボタンを押したら、やはり3400円しか戻ってこなかったと文句を言っています」

フロントのA子が私のところにやってきて言った。
ラブホバイブルの「ラブホで垣間見る人間の本性」の所で”釣り銭詐欺”について述べた。これはラブホの自動精算機にお金を入れたところ、お釣りが出てこないと言って、料金を払わないどころか小遣いまで稼いでいくというものであるが、これもその手の一種である。

自動精算機に紙幣等の詰まりといった支障が生じると、事務所内にある自動精算機の端末機が警報を鳴らすとともに、いくら入金されていくら未入金かといった明細が表示されるのであるが、それが何も出てないことを確認してから、私はロビーに出ていった。
男女2人づつの4人のグループが私を待ち受けていた。いずれも20代半ばぐらいか。男二人はミュージッシャンのような大きなサングラスをして、いかにもあまり行儀の良くないような感じであったが、女性は至って普通そうな綺麗な子達であった。
私が自動精算機に入れた金種を尋ねると、「5千円札を入れた」という。そしてキャンセルを押すと3千円しか返ってきたという。
この話を聞いて、私は即座にこの話はでまかせであるなと思った。出るべきお金が出てこないということは、自動精算機ではまれにあることである。しかも時には警報も何も出ないことがあるから始末が悪い。
しかし、5千円札を3千円と機械が認識間違いすることはまずないといっていい。紙幣の認識は自動精算機の生命線である。全く印刷パターンが異なる5千円札と千円札を機械が読み誤ることは、この手の機械ではまず考えられない。

土曜日の朝の忙しい時間帯でのことである。私は、すぐさま自動精算機を取扱中止にした上で、4人を待合室に案内し、そこで待ってもらうことにした。私が自動精算機を取扱中止にしたのは、警察沙汰になった場合に、客が入れたという紙幣を特定し、指紋を検証できるようにするためである。
四人を待合室に待機させた後、私は念のため精算機の中に2千円が詰まっていないか、残高の不一致があるか(2千円多いことがないか)を確認した。だが、金のつまりもなければ、残高はぴったりカウンタどおりである。やはり相手方は嘘をついている。

しかし実は問題はこの後の対処の仕方である。それを誤ると、いつまでも「入れた入れない」の水掛け論になり、揉めること必至であるからである。

私はいかに混乱なく事を運ぶかを考えながら、彼らのいる待合室に向かった。男性二人がソファに座り、その前に置かれた簡易椅子に女性二人は腰掛けていた。手前の男性はだらしなく片足をソファに乗せて、悪態をついている。
私は彼らの前に行って”こんなことは初めて”で、”機械を調べたけど、今のところ異常もない”旨を告げた。
しかし男性達はお金を確かに入れたと主張して譲らない。そして周りにも「入れたよな?」と同意を求める。「入れた入れた」と2人の男性が騒ぐ一方で、女性2人はうなづく程度であった。
そこで私は、嘘をついて尋ねた。
「キャンセルを押した場合はそのお金がそのまま戻ることになっているのですが、5千円札を入れたのですか?」(私のところにあるアルメックス製の精算機は、実は別の紙幣である千円札が5枚となって返還される。一度、投入した札がそのまま返還されることはない)
「千円札を入れたんだよ。5千円札をフロントで両替をしてもらった」と男性の一人。
先程は5千円札を入れたと言ったのに、今度は違うことを言う。
私は「今調べたけのですが、異常は今のところ発見できませんでした。それでも、お客様は入れたということですので、2千円お渡し致します。但し、住所と氏名と身分を証明するものを見せて頂けますか?そして、もしその後に十分に調査して、仮に異常が見つからなければ、お客様にご迷惑をおかけすることもあるかもしれません」と告げた。
相手に動揺がさっと走るのがわかった。

詐欺罪が成立するには金品を相手がだまし取ったという結果が必要である。いつまでもお金を渡す渡さないで揉めていたら、いつまでたっても決着がつかない。相手も言い出した以上、簡単には引けないのである。そこで、こういう場合はまずお金を渡してしまう。そうすれば、その時点で詐欺罪が成立することになる。後は警察に任せればそれでよい。所詮、たいした金額ではない。

相手もそれに気がついたらしい。
背の高い、少し知的な印象の女性が初めて口を開いた。

「もし、お金を受け取って、お金が入ってなかったら、詐欺になるのでしょうか?」

「それはちょっと私にはわかりません」と私はとぼけた。
「まあ、2千円ぐらいで面倒くさいしな〜」と男性がいいはじめた。女性が再び、私に向かって言った。

「私たちで話をさせてください」

私は一旦、事務所に戻った。しばらくして、4人がぞろぞろと待合室から出てきた。そして「もういいや」と料金を払って帰っていった。ふう〜、やれやれである。

しかしいくら客商売といえども、こちらにも客を選ぶ権利はある。あのような連中は来ていらない連中である。来ていらない連中には決して甘い顔をしてはいけない。甘い顔をすると、「あそこのラブホはちょろい」という噂が仲間内に広がる。そうすると、また同じような連中が押しかけてくることになる。

その4人が出て行った後に、私は念のため、すぐにその4人が使った客室を点検に行った。コップを灰皿にしたり、部屋は汚かったが、特に異常もなかった。その4人組は宿泊したのであるが、ダブルベッド一つしなかい部屋でどうやって寝たのであろうか。特にあの跡の痕跡らしきものも感じられず、不思議なカップルであった。

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