ラブホバイブル>お騒がせな男性二人客


お騒がせな二人の男性客

それは日曜のまだ静まりかえった朝8時頃のことである。

まだ若い、30歳前後と思われる帽子をかぶった婦人警官が一人でたずねてきた。正面玄関から入ってきて、フロントにやってきたので、私はロビーから事務所の方へと招き入れて、応対した。

婦人警官がいった。

「今日の午前6時頃にそこの道路をタイヤがなくて車輪だけで車が走っているとの通報を受けて、それで、道路についていた車輪のあとを追ってきたら、こちらの駐車場の中にたどりついたもので」

「何か事件ですか?」私が尋ねると、

「いえ、まだ詳しくはわからないのですが、いまのところはそう話ではありません」と婦人警官。

「はあ、そうですか……」

車輪だけの車? あまりぴんとこず、首を傾げている私に、婦人警官がとりあえずその車を見てくれというので、一緒に外にでると、駐車場をみて驚いた。入り口の道路からずっと、駐車場内をまえで線路のように平行に二本の線の跡がくっきりとついている。

"おいおい、勘弁してくれよ、この跡はまさか消えないんじゃないだろうな"

と内心思いながら、そんなことには全く関心がない婦人警官と私とで、その二本の線を辿っていくと、駐車場の裏側の一番奥にとまっている黒のセダンにたどりついた。
前から駐車場の区画に突っ込んである車の前方に回ると、なんとその車の前二輪のタイヤが両方ともホイルだけしかない。これはどう見ても尋常ではない。こんな状態で一般道を走ってきただろうか?

車を確認後、私と婦人警官は再び、ホテルの事務所に戻った。

「この車の持ち主に話をききたいのですが、どちらの部屋に入室されたかわかりますか?」

「ちょっとお待ちいただけますか、調べてみますので」

「よろしくお願いします。私は応援を頼みますので」

婦人警官はそういうと、電話で車を発見した旨と応援の依頼をしていた。

私はリネンのモニターで今朝の6時以降の入室者の客室を確認した。
すぐに車の持ち主が入室した部屋がわかった。朝から入室した客は、現在のところ一組だけだった。
さっそくフロント係にその客室に電話をいれてもらった。しかし誰も出ない。フロントが何度も何度も電話をかけるのであるが、何の応答もなしである。私も受話器を手に取り、延々とベルをならすもやはり誰も電話にでない。
おかしい。もしかして、客は逃げて、客室はもぬけの殻なのか? しかし車はまだ駐車場にある。中に人がいることは間違いない。しかしこれだけ電話してもでないなんてことは通常ありえない。私はやや不安を覚えた。

そうこうしているうちに男性の警官も二人到着した。
電話してもでないので、早速、私と二人の男性警察官とで急遽、客室にむかった。男性の警官の姿を確認したら、婦人警官は帰っていった。

客室は鍵がしっかりとかけられていた。
私は客室の玄関のチャイムを鳴らした。しかし何度鳴らしてもやはり変事はない。

こうなったらもはや残された手段は突入だけである。

男性警察官の一人が私に言った。

「鍵はあきますか」

「ええ、合い鍵はありますから」

「私たちは、立場上、勝手にホテルの客室に入るわけにはいきません。それで、ホテル側さんより警察に『お客さんの返答がないので、身を案じて警察に立ち入りの要請をした』ということにしてくれませんかね」

”なんだなんだ? こちらだってラブホテルなんだから、客がいる客室に立ち入ることは御法度なのにー”と思いながらも、状況が状況だけに仕方がないので、「わかりました」と応えて、私は合い鍵で客室の鍵を開けた。


玄関の扉を開けると、靴が二つ見えた。やはり中には客がいるのは間違いないようだ

玄関のドアを開けた直後、警官が大きな声で部屋の中に向かって声をかけた。

「おーい!! ○○君と○○君、いるか!?」

警官は既に、客二人の名前を把握していたのだ。

やはり返事がなく、私たちは中に突入した。

玄関を進んですぐに左手にあるお風呂場の浴槽でまず最初の一人を発見した。裸の男性が浴槽から身を乗り出すような感じの姿勢をとって、だらりとしていた。

「おい、おい!、○○君!、 起きないか!」

警官の大きな声に男性が目を覚まし、寝ぼけ眼差しうでこちらを見上げた。

単にお風呂場で爆睡していただけのようであった……。


更にもう一人の男性も客室内のベッドで発見された。

こちらもまた、ガウンを着て、気持ちよく爆睡していただけであった……。


お風呂場で爆睡していた男性は、警官に促されて、廊下に出て、事情を聞かれることになった。

もう一人の男性は、そのまま客室内でもう一人の警官に事情を聞かれることになった。

廊下に立つ裸の男性と制服をしっかりと身にまとった警官の姿は、なんか異様というか不自然な感じで、警官も途中でそれに気がついたらしく、「おい、何か下にはいたらどうだ?」といい、男性はとりあえず、タオルを下半身に巻き、再び、事情徴集が始まった。

お役ご免になった私はとりあえず、一旦、その場を離れ、事務所に戻った。

しばらくして、二人の警官も降りてきて、私に言った。

「溝に落ちて、タイヤがはずれただけで、特別、事件性はないようです。飲酒運転でもないみたいですし」

前輪が同時に溝に落ちてタイヤが外れた???

不審に思い、「溝に落ちただけですか?」と再度確認するも、「ええ」と応える警察官。

そして、警官は去った。


なんか釈然としない思いながらも、あっけない幕引きに、しばし呆然としながらも、私はすぐに駐車場についた車輪の跡のことを思い出し、不安を覚えた。

”もしかして、あの跡、一生あのままじゃないだろうな……?”


(PS)
駐車場についた跡は、徐々に薄くなり、約1年ほどで消失した。


ラブホバイブルへ戻る